【ネタバレあり】初代ときメモ(1/18)
ときメモ(1)高校生活シミュレーション
初代ときめきメモリアルは、コナミ社が制作した恋愛シミュレーションゲームである。コナミ社といえばゲームセンターへと、数々の人気シューティングゲームを卸していた硬派な会社である。あのコナミが戦闘ものではない軟派なゲームを作ったのか?と驚きの目で当時は見られたものだった。
初代ときめきメモリアルは企画書では恋愛ゲームではなく、学校生活シミュレーションゲームだったことをご存知だろうか?
企画書の仮タイトルは「高校三年間」という呼称であり、女の子はひとりも登場しない硬派な作品になるはずだった。
ときメモの原題が「高校三年間」だったことは古参なら誰でも知っており、1、2年前まではウィキペディアにも記載されていたのだが、なぜか現在のウィキペディアからは「高校三年間」が原題であった記載が消されてしまっている。
■ シムシティ
1989年に「シムシティ」という革命ともいうべきゲームが出てから、しばらくのあいだは育成型シミュレーションゲーム全盛となったのが当時の世情である。
シムシティは、プレイヤが架空都市の市長となって、公共投資をおこなって町を発展させるゲームだった。
まずはブルドーザーで地形を均し区画整理をしたあと、発電所をつくって電力確保。浄水場をつくり飲料水確保。そのあと道路を引いて、住宅街をつくり、商業施設もつくる。あわせて消防署、警察、病院、学校とつくっていく。
そうするとその都市に移住する市民が増加してくるので、税収入がとれるわけだ。
その後は、都市予算を見ながら、公共投資したり、税金を上げたりするが、税金が高すぎると市民が不満をもち転出して人口がへってしまう。市長たるものバランス感覚が大事なのだ。
シムシティでは、パラメータ数値といって、予算とか、税率とか、投資額とか、多くの数値をプラスにしたりマイナスにしたり操作することでシミュレーションが進む。育成対象は都市であった。
こういったパラメータ数値を増減させることで育成対象を成長させるゲームが、1990年前半には大流行したわけだ。
経営者感覚を身につけるに最適な教材であるため、多くの類似ゲームが作られた。
育成対象を会社経営にしたシミュレーション。
育成対象を惑星環境にしたシミュレーション。
育成対象を競走馬にしたシミュレーション。
■ プリンセスメイカー
そしてついに育成対象を人間にしたシミュレーションが登場する。
1991年に「プリンセスメイカー」というゲーム作品が発売された。育成対象は女の子であり、プレイヤは女の子を立派なレディに育てあげることが目標であった。
プレイヤである主人公は百戦錬磨の戦士である。祖国を防衛するため数えきれない戦争で武勲を立てた最強戦士だ。ただし負傷してしまい戦場から身をひくこととなった。最強戦士は、「残る人生を戦災孤児の教育にささげたい」と国王陛下にお伺いをたてる。
「よくぞ申した。教育は国の宝である」といたく国王陛下は喜ばれ、数日後に戦災孤児である10歳の女の子が王宮から届けられた。
主人公はその小さな女の子を養女とし、猫田にゃん子と名づけ、立派なレディへと育てることを決意する。
ゲームが始まると、学問、礼法、武芸、武者修行、アルバイトさせる、休暇でお小遣いをあげて遊ばせてあげる、旅行へいく、といった多くのコマンドが選べて、女の子を鍛えあげる。
女の子のパラメータ数値がそれにより育成されていき、将来が決まるわけだ。
学問ばかりやっていくと学者になるとか。
武芸ばかりやっていくと女戦士となるとか。
遊びばかりやっていくとモラルが下がって娼婦になるとか。
■ 卒業
1992年には「卒業」という類似ゲーム作品が発売された。
プレイヤである主人公は、清華女子学院へ着任した新人教師だ。彼のもとに5人の問題児が割り当てられる。どいつもこいつも落第生ばかりで、このままでは卒業できそうもない。
この落ちこぼれどもを教育し、パラメータ数値を育成して、各学力を向上させて無事卒業させることが目標である。
■ 高校三年間(ときめきメモリアルの原案)
このような先行事例があるなかで、後にときめきメモリアルと改題することとなる「高校三年間」企画書が書かれたのだった。
今となっては伝聞によるしかないが、どうやら原案では女の子がひとりも登場しないゲームにする予定だったらしい。
登場人物は主人公(男)がひとりだけで、高校入学から高校卒業までの三年間で、みずからを鍛え上げて、卒業時点でのパラメータ数値によって将来が決定される、という企画書だったらしい。
勉強パラメータ数値をめいっぱい成長させれば、一流大学をへて学者になるとか。
運動パラメータ数値をめいっぱい成長させることで、スポーツ選手となってプロスポーツで活躍するとか。
芸術パラメータ数値をめいっぱい成長させることで、芸術家として売れっ子になるとか。
そういった目標の、育成型シミュレーションゲームになる企画書だったらしい。
先行事例である「プリンセスメイカー」「卒業」に似ているのだが、そちらは主人公が父親なり教師で、
育成対象が娘なり生徒という関係であった。
「高校三年間」では、育成対象が主人公自身であり、将来どういった人間になりたいのか?を考えて、自分自身を育成するという変わったゲームとなる予定だった。
その後の企画書変更で恋愛ゲームになってしまった「ときめきメモリアル」ではあるが、しっかりこの育成型シミュレーション要素は残存しており、
高校卒業時点でどういった進路になるかは、自動的に判定されることになる。
細かい経緯はよく分からない。当時の事情を伝える伝聞が残っているだけなので、細部については異なるかもしれないが。
「高校三年間」は実際にテストプレイすると今ひとつ面白くなかったのだそうだ。
高校三年間という企画書をもとに、開発チームが仮組みをしたゲームのテストプレイをしたらしい。すると不評だったとか。
ゲーム作品中でも三年間という期間は非常に長く感じて、そのあいだずっとパラメータ数値を成長するだけの単調作業ばかり続く。
やっと卒業まで至るのはいいのだが、当たり前のエンディングになるだけだ。運動パラメータ数値が伸びていればプロスポーツ選手で活躍するなんで誰でも予想できる。実に味気ない。
先行事例である「卒業」は、主人公が男性教師であり、育成対象は5人の女子高校生である。健康的なお色気シーンなどのイベントも盛りだくさんだった。
高校生活は青春時代だというのに、男子高校生がまるで修行僧がごとく、異性に脇目もふらず、みずからのパラメータ数値を延々と育成するという寂しい青春はいかがなものだろうか?
そういった反省会をもとに企画書をわずかに修正して、女の子をひとりだけ、登場させることになったらしい。
当時はまだヒロインの名前すら未定であったが、その女の子は、主人公の幼なじみであるが容姿端麗、学力優秀、スポーツ万能の学園のマドンナ。しかも異性にたいする理想が高くて、自分につりあう男はやはり、容姿端麗、学力優秀、スポーツ万能であるべきと考えているという企画設定にした。
こうすることでようやくゲーム性が高くなってくるわけだ。
学力パラメータ数値だけを上げてもだめ。運動パラメータ数値だけを上げてもだめ。芸術パラメータ数値だけを上げてもだめ。容姿パラメータ数値だけを上げてもだめ。
全ての数値をバランス良く高水準にまで引き上げたときだけ、その女の子と恋人になれるハッピーエンディングとなるわけだ。この女の子はいわば優勝賞品のようなものだった。
さっそく女の子(氏名未定)を組み込みなおした仮組みでテストプレイをやってみると、
格段に面白くなったのはいいが、たいていはハッピーエンドとなることが分かった。
高校の三年間というのは案外長い期間なので、それだけあれば全ての数値をあげることは難しくはなかったのである。
どうしたらゲーム性を上げられるかの試行錯誤がつづいた。女の子の数を増やしてはどうか?とサブヒロインを大量導入をしてみた。
これも失敗。
どれほどヒロインが増えようと、主人公がサブヒロインを相手にせず、メインヒロインだけを狙ってしまえば確実にハッピーエンディングなってしまうのでゲーム性がない。
もっと障害をつくって、難易度を上げないといけない。
書き直された企画書は、もはや当初の高校生活シミュレーションからかけ離れ、メインヒロインとの恋愛ゲームを面白くするためにどうやって難易度を上げるべきか?という辺りが議論となっていた。
そうして出た回答は、傷心度爆弾システムであった。主人公がメインヒロインだけを追いかけることを妨害するような制約をつくればいい。
サブヒロインたちに、好感度パラメータ数値とは別に、傷心度パラメータ数値をつくる。
好感度はふつうに好きか嫌いかだが、
傷心度はちょっと特殊であって、自分が大切にされてないと思うと心が傷つく、というものである。
女の子たちはみな主人公からのデートのお誘いを待っていて、デート実行されれば、わたしは大切に想われているんだ、と満足する。
ところが何ヶ月もずっとデートのお誘いが来ないと、主人公はちっともわたしを見てくれない、わたしは大切にされてない、と傷心してしまう仕組みだ。
傷心度が我慢の限界にくると、ドッカーンと爆弾が破裂し、女の子全員の好感度が丸ごと下がってしまうペナルティである。
現実でいえば女子更衣室とか女子トイレとかで、「主人公ったらひどいの。わたしを相手にしないで放ったらかしにするの。」と泣きわめくようなものだろう。
女の子のウワサネットワークで一気に、「主人公くんたらひどいよね」と悪評価が広がるわけだ。
好感度が高い状態であっても、ひとたび爆弾が破裂しはじめると、全ての女の子たちの好感度がガンガン下がってしまう。
爆弾がつぎつぎと連鎖破裂しはじめるともう最悪だ。
この傷心度爆弾システムという、画期的なアイデアによって、一気に難易度あがりゲーム性がました。
喜ぶ開発チームだが、もはやここまで企画書変更になってしまうと、高校生活シミュレーションゲームというより、恋愛シミュレーションゲームだよね、となってしまって
「ときめきメモリアル」という作品名へと変更したのだった。
1994年に、ときめきメモリアルは発売された。