【ネタバレあり】メモオフ4(8/8)
メモオフ4紹介8/8
補足。隠れメッセージ。
メモオフ4は伏線だらけの難解なシナリオであるがそれだけではない。
なんとこれに加えて隠れメッセージまでもが仕込まれている。比喩表現だったり、象徴だったり、舞台装置だったりする。うっかりすると気づかない。下記に、隠れメッセージの例をしめそう。
(1)【比喩表現】遮断器のおりる踏み切り
芦鹿島電鉄桜峰駅の踏み切り。
オープニング動画のみに登場するが、本編にはまったく登場しない。
そもそもメモオフ4の舞台は、浜咲(高校、陵いのり自宅)と千羽谷(喫茶店ならずや、鷺沢一蹴の安アパート)である。陵いのりと別れる場面の海岸は、浜咲の海岸である。
桜峰にいくのは、陵いのりが白河ほたるに呼ばれてレストランルサックに行く場面と、やはりルサックを多用する花祭果凛シナリオだけだ。オープニング動画になぜわざわざ桜峰を出すのか?
これはおそらく比喩表現である。光輝く海が、陵いのりをあらわしているのだろう。
陵いのりの元へ向かおうとすると、遮断器が降りて、鷺沢一蹴の行く手が塞がれてしまうのだ。
(2)【象徴】ソウチンニャン人形、自己犠牲に殉じる象徴
ソウチンニャン人形は、てるてる坊主の原型となった古代中国の民間伝承である。雨を止ませて太陽をもたらすとか、願い事をかなえてくれるとされている。
歴代メモオフの主題は「雨はいつ上がる?」であり、雨は不幸な過去の象徴である。
ゆえに雨をはらって太陽をもたらすソウチンニャン人形は幸福の使者ということになる。
今作においては、幸運をもたらすアイテムとして物語で重要な役割をはたす小道具として使われた。
「掃晴娘」という箒(ほうき)をもった女の子の人形。持っている箒で、雨雲をはらって雨を上らせて太陽をもたらすという。古代中国の民間伝承である。古代中国のソウチンニャン人形は紙製で出来ていたので、雨が上がったあとはボロボロになって捨てられたらしい。
伝承というものはやがて転化するものだが、ソウチンニャン人形に願うと、願いを叶えてくれる、という伝承もあるそうだ。
民間伝承というものは、起源をたどっていくと悲惨な事件がもとになる事が多い。
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かつて「掛掃晴娘(グアソウチンニャン)」という美人で利口な上に、手先が器用で切り紙が得意な少女がいた。
ある年、大雨が見舞い、一向に止む気配がなく、このままでは川が氾濫して町が水没する恐れがあった。
晴娘は屋根の上で、天に向かって雨が止むことを祈願をする。すると天から大声が響き、
「晴娘よ、東海龍王が汝を太子の妃にとご所望じゃ。もしも、従わなければ、街を水没させようぞ。」
晴娘は人々を救うため、
「命に従って天に上ります。どうか雨を止めてください。」
と言った。晴娘は天へと連れていかれて、それっきり生まれ故郷には2度と戻れなかったのだという。
その犠牲があって、雨は上がり、空は久しぶりに晴れた。人々は救われた。人々は晴娘をしのんで、雨が降り続くと人の切り紙を作り門に掛けるようになった。
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人々を幸せにするため、自らを犠牲をするのがソウチンニャン人形の元々の伝承である。その元伝承が、ソウチンニャン人形に祈れば願いを叶えてくれる、となった。
紙でできたソウチンニャン人形は願いを叶えるだろう。ただし代償として自らはボロボロとなり捨てられるのである。そう考えると、ソウチンニャン人形に願いを祈るという行為は、本当に身勝手なことではないか。
陵いのりがソウチンニャン人形を好むのは大変な皮肉である。シナリオを書いた脚本家は、古代中国の元伝承を知ったうえで象徴としたに違いない。
(3)【舞台装置】片瀬山の廃キリスト教会
片瀬山にある廃キリスト教会。これがメモオフ4最大の隠れメッセージである。
メモオフ4登場人物は全員が罪を負っている。
藤原雅、野乃原葉夜、飛田扉は、自身には罪はないが、誰かがもたらした害悪の被害者である。
加害者にしろ、被害者にしろ、人の罪に登場人物全員がかかわっている。
人は生まれながらに罪人である。罪をおわない人間などいない。これは「人の原罪」といってキリスト教義の根幹である。
「罪から目を背けず、罪に向き合い、神の前で懺悔しなさい。悔い改めるのです。」
このキリスト教義と、飛田扉の言葉が、まったく一緒であることに気づくだろうか?
過去から目をそらさず、安息に逃げず、孤独に苦しみ続けること。
扉はそれをオレに求めている。
キリスト教会でもっとも重要な部屋は、きらびやかな聖堂ではない。薄暗い懺悔室こそ、キリスト教義の実践場所である。
神の前に懺悔しなさい。悔い改めるのです。
悔いる+改める。
悔いるとは、自らの罪に目を背けずに真摯に向き合うこと。逃げないこと。
改めるとは、自らの罪を償い、正しい道へ進むこと。
懺悔室にはたった一人で入る。己の罪に向き合うのも一人でおこなう孤独な作業だ。
鷺沢一蹴は、ラストシーンで、
陵いのりを傷つけた、己の罪に向き合った。
これが悔いるである。
彼女を心から愛し、たとえもう2度と会えなかったとしても彼女を信じつづける。
これが改めるである。
(4)【副題】かけがえのない想いを乗り越えて
メモオフ4の主題は「それから」である。
副題は「かけがえのない想いを乗り越えて」。
これが複数の意味を多重重畳していることは明らかだろう。
「かけがえのない想いを乗り越えて、それから先の未来へ」
という具合に繋げるべきである。これはキリスト教義にある
「悔いて、改める」
にも通じる考えかただ。過去を無かったことにするのではなく、過去をしっかり受け止めて、そして未来へ進むという願いである。
メモリーズオフ初代からの「想い出を切り離す」といったシリーズ全体を通じたテーマにも合致している。
サブヒロインシナリオでは、かけがえのない想いというものが陵いのりだとすぐに分かる。
陵いのりTRUESTORYシナリオでは、かけがえのない想いとは何か? おそらくは複数の解釈ができるはずである。
(5)【対になるシナリオ】カフェ編花祭果凛シナリオ
前作であるメモオフ3想い出にかわる君では、黒須カナタエンドと、荷嶋音緒エンドがあった。
今作メインヒロインは一見すると1人なので陵いのりエンドが唯一のTRUESTORYとなっているのだが、わたしは隠れたTRUESTORYがある考えた。
このことを指摘しているレビューはほぼ無いので、わたしだけの勝手な思い込みなのか知れないが、
黒須カナタエンドが、陵いのりエンド
にそれぞれ対応している気がする。
黒須カナタエンドでは、黒いリボンや石ころの謎がすべて明かされた。
荷嶋音緒エンドでは、謎がまったく明かされないまま黙って黒須カナタは去っていった。
もう一度、カフェ編花祭果実凛エンドを振り返ってみよう。特に浜咲の海岸での別れる場面である。
この別れのあと、鷺沢一蹴は、変わることを恐れず、花祭果凛を迎えるというシナリオだった。
陵いのりTRUESTORYシナリオを攻略したあとに、改めてこの場面を振り返ろう。
そうするとこれは、もう一つの可能性だとわかるはずだ。
登波離橋のうえで、加賀正午と別れをした黒須カナタと同じなのだ。
黒いリボンをはじめ、何もかも真相を伝えれば別れずに済んだかもしれない。だが黒須カナタは何も言わず、黙って正午の前から去ってしまった。
そして陵いのりの言葉こそが、メモオフシリーズ通してのテーマとつながる。
「過去に囚われて、変化を恐れてはならない。」
以上、とりあえず気づいた隠しメッセージについて指摘してみた。他にもまだあるかも知れない。とにかくメモオフ第4作は、あちこちに伏線やら隠しメッセージが埋め込まれているので、何度も何度も繰り返しプレイするたびに発見の連続だった。
古いギャルゲだが、機会があればプレステと一緒に購入し、自らの目で物語を追体験いただきたいと切にねがう。