【ネタバレあり】初代ときメモ(18/18)
主人公の隣の家に住む幼なじみにして、学園のマドンナ、藤崎詩織。清純派アイドルのような設定のため、本来ならば人気ナンバーワンであるべき存在。しかしながら評価が両極端に分かれていて、
藤崎詩織は性悪女とするアンチと、藤崎詩織こそ女神であるとするシオリストが、併存しているのだ。
概して初見では藤崎詩織には悪感情をいだくひとが大半である。言動が支離滅裂にみえて意味が分からないからだ。
しかし段々とプレイ経験を重ねて、藤崎詩織を攻略できるベテランとなると評価が一変していく。藤崎詩織は優しくて臆病な女の子なのだ、と。
プレイ経験の浅いひとはアンチとなり、
プレイ経験を重ねたひとはシオリストとなる。このため評価が極端に二分されるのだ。
■ 初心者に、藤崎詩織が嫌われる理由
経験の浅いプレイヤたちから藤崎詩織が嫌われる理由は主に2つある。
1)打算的にみえる言動
2)好感度が低いときの毒舌
1)打算的にみえる言動
「一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし」、これは藤崎詩織のもっとも有名なセリフだ。ゲーム開始直後のデフォルト好感度(ちょっと苦手段階)のときは、下校時にいっしょに帰ろうと誘っても断られる。
プレイヤにとって、藤崎詩織の第一印象はこの場面なわけだ。
だがこの段階では、プレイヤは藤崎詩織を嫌いにはならない。藤崎詩織と主人公とは疎遠なあいだがらなんだな、と思うだけだ。
自宅が隣同士であるのにいっしょに帰りたくないというならそんな女は放置しとけ、という気分になる。それなら他のサブヒロインを狙ったほうがいい。
そこで冷淡な幼なじみなど相手にせず、サブヒロイン攻略をしていくうちに、主人公のパラメータ数値はどんどん上がっていく。するとどうだろう?
冷淡だった幼なじみが、手のひらを返したようにデレはじめ、自分から下校をいっしょに帰ろうと誘ってくるではないか。
プレイヤが藤崎詩織を嫌いになるのはこの瞬間である。パラメータ数値が低いときは好感度も低かったくせに、パラメータ数値を上げたら勝手に好感度も高くなりやがった。
いるよなあこういう女。貧乏のときは見向きもしなかったくせに、金持ちになったとたん「わたし前からあなたのこと良いなって思ってたの」とか、すり寄るメスども。
プレイヤは現実生活で、打算的な女は山ほど見てきただろうから、3次元にいるメスブタどもと同じだ、と一気に不快になるのだ。
2)好感度が低いときの毒舌
これはプレイ経験が浅いというより、そもそもプレイ未経験者の場合となるが、YOUTUBEやニコニコ動画に無数にある藤崎詩織の動画を見たため、藤崎詩織を嫌いになるパターンである。
好感度が最低レベルまで落ちると、藤崎詩織は主人公に凄まじい毒舌を吐くようになるのだ。どつき漫才のようなお笑いネタになるため動画サイトでは大人気だ。
これを視聴して、ああ藤崎詩織ってのはひどい女だねえ、と嫌いになるわけだ。
プレイ未経験者は動画を素直に信じてしまうが、そもそもノーマルに正しいプレイをしていてこのような毒舌にはならない。
意図的にデートをすっぽかして、たくさんのサブヒロインたちを泣かせたときに、好感度は最低レベルに落ちる。そういったアブノーマルで作為的なプレイをしたときだけ、こういった毒舌になるだけだ。
いくら幼なじみでも、女の子たちを泣かせてばかりの酷い男に、優しくなどできるわけがないのだ。女の敵ってやつだ。
藤崎詩織のアンチは、藤崎詩織の人物像をあまりに誤解するのである。
■ ベテランになると、シオリストになる
初心者はまず第一印象で藤崎詩織へと苦手意識をいだく。それと難易度が高いヒロインでもあるので初心者がいきなり藤崎詩織を攻略することは不可能である。
初心者が好むのは、難易度が低くて、かつ明るく社交的なサブヒロインたちだろう。
具体的には、朝日奈夕子、片桐彩子、虹野沙希あたりである。これら以外のヒロインはやや癖が強い。一般的には運動部活所属ヒロインは難易度が高いが、虹野沙希は運動部活所属ヒロインのなかではかなり初心者向けである。いざとなれば主人公は野球部には入部せず、部活動なし状態で虹野沙希を攻略すればいいのだ。
こうしてサブヒロインたちを次々と攻略して、ときメモ経験を積み重ねていく。
じゅうぶん自信をつけてようやくメインヒロインである藤崎詩織を攻略するのが普通だ。
藤崎詩織を攻略していく過程で、プレイヤはだんだんと気づいてくる。当初思っていた打算的な悪女ではなく、藤崎詩織はごく普通の臆病な女の子なのだ、と。
ゲーム本編では、主人公と藤崎詩織の過去がすべて語られるわけではないが、下記の事情をプレイヤは知ることになる。
● 主人公と藤崎詩織は、小学校低学年までは大の仲良しだった。いつだって一緒に遊んでいて、互いの自宅を往復して毎日のように2人の時間を過ごしていた。
● 小学校高学年に何かがあった。それ以降、中学生からは2人は疎遠になってしまった。
● 疎遠になってしまったことを、藤崎詩織は寂しく思い、後悔すらしている。
● できることなら元通り、仲良しの2人に戻りたいと願っている。
こういった事情をプレイヤは知り、だんだんと分かってくる。
藤崎詩織の矛盾した言動は、勇気が足りない、臆病からくるものだと。
本当は元通りに戻りたいが、そのための行動を自らおこすことが怖いのだ。ゆえに現状維持をするしかない。
だから藤崎詩織は待っているわけだ。主人公のほうから関係修復の手を差しのべてくれることを。
イベントは多数あるが、必ず出てくるイベント(春の公園、ホワイトクリスマス)だけでも、疎遠になってしまった関係を、藤崎詩織が後悔していることはじゅうぶん伝わる。
さらにだ。特殊条件をととのえたときだけ発生するレアイベントもある。特に重要なものが「10年前のプレゼント」だ。このイベントは特殊条件を知らないプレイヤでは絶対に見ることができないレアイベントだ。
藤崎詩織の誕生日に、誕生日プレゼントを渡そうと思っていたら、詩織から電話がかかってきて、藤崎詩織の部屋に招かれる。疎遠になってから数年ぶりに訪れた藤崎詩織の部屋。そこで彼女がずっと大切にしている宝物を見せてもらう。
● 幼い主人公は、幼い藤崎詩織に、オモチャの指輪をプレゼントした。
● そのオモチャの指輪を、藤崎詩織は10年間ずっと大切な宝物としていた。
このレアイベントを見てしまったプレイヤは、もはや藤崎アンチで居続けることはできない。シオリストへと転向することなるだろう。
■ 企画段階での設定
ゲーム本編では、過去に何かがあって疎遠になってしまったことが示唆されているだけで、それでは何があったのか、は語られていない。
初代ときメモが社会現象とすらなるブームを巻き起こしたのは1995年から1996年あたりであるが、当時は、攻略本やら解説本が数えきれないほどあった。ゲーム雑誌の特集記事も無数にあった。
もう20年以上前なのでいったいどの資料で見たかは覚えていないが、主人公と藤崎詩織との関係について、企画段階での設定の記事を読んだ記憶がある。
申し訳ないが、わたし猫田にゃんの記憶に基づくので、今となっては記憶が正しいのかの事実確認ができないことをお詫びしておく。下記がわたしが読んだ記憶の内容だ。
● 主人公の家族と、藤崎詩織の家族は、新築されたばかりの分譲建売住宅に引っ越して入居した。
隣同士であり、同年齢の2人はすぐ仲良しになって、お互いの部屋を行き来し、毎日楽しく遊んでいた。
● そのうち2人とも近隣の小学校へ入学した。小学校低学年まではいつだって2人はいっしょだった。
● 小学校高学年になって女子のほうが早く成熟するため、藤崎詩織を取りまく環境が厳しくなってきた。いつも主人公とばかり遊ぶ藤崎詩織は、女子仲間からは浮いた存在になりつつあった。
● 藤崎詩織は、主人公のことをだんだんと異性として見るようになり、気恥ずかしい意識もあって距離を置きはじめた。クリスマスパーティを主人公とではなくて、女子仲間とするようにしたり、遊び相手が同級生の女子へとなっていく。
● 主人公は訳が分からないまま、藤崎詩織から嫌われてると感じて、主人公もまた同級生の男子と遊ぶようになる。
● 中学生になると、主人公もまた藤崎詩織を異性として意識しはじめる。容姿端麗な藤崎詩織を見て、主人公は自分ではとても釣り合わない高嶺の花だと劣等感を抱いた。
「詩織がこれまで俺と仲良くしてたのは、家が隣同士のご近所だからだ。詩織を恋人にしたいけど、俺なんかじゃ無理だ。」
主人公はすっかり自信を無くし、怠惰な生活をダラダラ過ごすこととなった。
以上が、わたしが読んだ企画段階の記事だ。
それに加えて、藤崎詩織が主人公について苛立っていることも記事にあった。
● 主人公は劣等感をもち自信を失っているが、実際には才能のかたまりである。
● 主人公の容姿は超イケメンで、たいていの女の子が惚れてしまうレベル。実際、隠しヒロイン1号である館林見晴と、隠しヒロイン2号は、入学式の日に主人公に一目惚れをしている。
容姿にうるさい鏡魅羅ですら、初対面の主人公に見惚れてしまうほどだ。
下記画像キャプチャは、謎の女(館林見晴)が高校生活を通じてたった一度だけ、卒業式の直前に主人公とデートをした、「最初で最後のデート」というイベント。ゲーム本編で主人公のビジュアルがある一枚絵はこれぐらいしか探せなかったが、館林見晴は高校入学式で主人公に一目惚れし、それから3年間、健気にも片思いしつづけた。それくらい主人公は超イケメンなのだ。
● 勉強についても、ちょっと頑張ればすぐ学年主席になれる才能がある。
● 運動だって、高校からスポーツをはじめても、あっさりプロスポーツ選手になれるほど上達する才能がある。
● 美術や音楽だって真面目に取り組めば、その道へと進める才能がある。
● 主人公は才能の原石なのだ。それを誰よりも藤崎詩織は知っている。
● それなのに主人公は自信を失って、俺は駄目な男だと思い込み、怠惰な中学時代を過ごしていた。
● そこを藤崎詩織は残念に思い、許せないとも思っている。もう一度、がんばって輝いている主人公くんを見たい、と藤崎詩織は願っている。
こういった企画段階での設定があれば、藤崎詩織の不可解な言動にも説明がつくわけだ。
■ 藤崎詩織が嫌われる理由への反論
1)打算的にみえる言動
主人公のパラメータ数値が高くなると、勝手に藤崎詩織の好感度があがる。これでは打算的なメスブタにみえる。
【反論】
藤崎詩織は、中学生のころ、せっかくの才能を無駄していた怠惰な主人公を残念に思っていた。
それが高校生になり、主人公くんが頑張りはじめた。なにかに対し努力して素敵だった主人公くんが戻ってきてくれた。それが藤崎詩織にとってはすごく嬉しい。
2)低い好感度のときの毒舌
幼なじみに向ける言葉とは思えぬ、心をえぐる毒舌は何なのか。
【反論】
藤崎詩織が毒舌を向けるのは、好感度が最低レベルまで落ちたとき、主人公に対し心底見損なったときである。よく言われる言葉があるだろう。「好きの反対は嫌いではなく無関心」
藤崎詩織は主人公のことをずっと好きだった。幼いころから主人公くんのお嫁さんになりたいと思っていた。
そんな主人公が、サブヒロインたちを泣かせる最低のクズ野郎だったらどうなるか? 無関心で淡々といられるだろうか?
プラスの感情が大きかったぶん、失望したときにはマイナスの感情へと一気に振れてしまうはずだ。
■ PCエンジン版のオープニング動画
主人公は、藤崎詩織にずっと片思いしていたが、高嶺の花だと半ばあきらめていた。
藤崎詩織も、主人公にずっと片思いしていたのだが、疎遠になってしまった原因を自分がつくってしまった負い目から身動きが取れない。
お互いに片思い同士だけど、あきらめ切ることも離れることもできず、つかず離れずの微妙な距離が、私立きらめき高校入学式のときの2人のわけだ。
企画段階設定の記事がどの雑誌とか書籍かは思い出せず事実確認もできないが、
少なくとも、藤崎詩織が主人公に片思いしている企画段階設定があった、という状況証拠は出せる。
1994年に最初に販売されたPCエンジン版ときめきメモリアルのオープニング動画では、藤崎詩織の部屋の机には、隠し撮りされた主人公の写真が飾られているのだ。
企画段階で、藤崎詩織はずっと主人公に片思いしている、といった設定がなければ、こんなオープニング動画にならないはずであろう。
藤崎詩織は、主人公に片思いする、どこにでもいる普通の女の子である。
主人公との最低限の絆である、幼なじみの友達という関係を壊すことが怖くて、身動きがとれなくなっている臆病な女の子である。
■ 藤崎詩織はなぜ伝説の樹にあらわれないのか?
藤崎詩織はたいていの場合、卒業式の日に伝説の樹にはあらわれない。よって主人公と藤崎詩織とは結ばれることのない未来となる。
なぜ伝説の樹にあらわれないのかといえば、臆病だからである。勇気を出せないのだ。
疎遠になってしまった片思いの男の子。恋人にはなれなくても、このままずっと幼なじみの友達でいられるのではないか?ずっと側にいられるのではないか? もし告白が断られてしまったら、幼なじみという最後の絆すらも失ってしまうだろう。そんな危険を犯す勇気が持てないのだ。自宅が隣同士でいつでも会えるという逃げ道が、藤崎詩織を決断させないのだ。
だがこの迷いが、いずれは藤崎詩織を後悔させるだろう。小学校、中学校、高校とずっと一緒だった2人だが、ここから先は進路が異なる。お互い異なる人間関係のなか、さらに疎遠になることは避けられないのだ。
主人公か、藤崎詩織のいずれかが転居すれば、そのまま離れ離れになってしまうだろう。幼なじみがずっと側にいられる唯一の手段は結婚することだけだ。
勇気を出せず離れ離れになるとき、藤崎詩織は泣くだろう。きっと悔やむだろう。
それから50年がすぎて、老人となった主人公と藤崎詩織は、互いに思うだろう。
幼いころ結婚を約束した幼なじみがいたことを。死の間際に、二度と会えなくなったお互いの名前をつぶやくのかもしれない。
■ 未来を手に入れるために勇気を
藤崎詩織が望む未来を手に入れるためには勇気を出すしかないのだ。
主人公が必死に努力し、がんばっている姿を見せることで、藤崎詩織は告白する勇気を得ることになる。入学式の主人公のパラメータ数値は凡人だった。卒業式の主人公のパラメータ数値は誰もが賞賛する誇らしいものだ。
がんばって輝く主人公くんが戻ってきた。
あとは藤崎詩織が勇気を出すだけだ。
■ それから15年がすぎた
続編である第4作「ときめきメモリアル4」は、初代と同じく、私立きらめき高校が舞台である。但し15年が経過している。制服のデザインもセーラー服からブレザー服へと変わった。校庭の片隅にはまだ伝説の樹はあるが、通っている生徒だちの大半はもう既に伝説を信じていない。半ば忘れられつつある。
ときメモ4には攻略最難関ヒロインとして、生徒会長をしている上級生、皐月 優(さつき ゆう)が登場する。皐月は、高校に古くから伝わる伝説の樹の祝福を強く信じたいと願っている。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の優等生にして生徒会長、学園のマドンナ。
かつての藤崎詩織と同じ位置づけのヒロインだ。藤崎詩織を意識した場面が随所にある。
皐月優が伝説の樹を信じたいのは、彼女が子どもの頃から憧れている親戚の女性の影響らしい。
親戚の女性もかつて私立きらめき高校を卒業したのだが、卒業式の日に勇気を出して、幼なじみの男の子に伝説の樹の下で告白したのだという。そして伝説の通りに、ずっと2人で幸せに暮らしているという。
その話を聞いた皐月優は、伝説の樹の祝福を受けたいと願っているのだ。それは15年前のできごと。そして皐月優にとってはこれからのできごと。