【ネタバレあり】φなる・あぷろーち2 (5/6)
φなる・あぷろーち2。副題にあるファーストプライオリティ(最優先事項)について語りたい。
来住美咲桜シナリオだと、とても分かりやすくなっている。
アンナ誘拐計画。
アンナこと美咲桜の父親が亡くなり、母親であるコウさんが、生き別れの娘である美咲桜を引き取りたい、と願ったからだった。
しかし事情があって、コウさんは自分が母親であることを告げることを許されなかった。美咲桜の祖母が、それを許さなかった。
「同居は容認する。ただし、あんたが美咲桜の母親ということは隠して欲しい。」
この交換条件のもとで、同居を認めた。
経緯を、コウさんの知り合い(おそらく益田西守歌)がきいて隠れた協力者となる。みずからの配下である黒服集団をコウさんへ貸し出し、また総理大臣へも根回しをして、数年ぶりにRTP推進委員会を再起動。富と権力をつかってやりたい放題。親権者である美咲桜の祖母の同意もあるため準備万端。
RTP推進委員会2によるコンピュータ無作為抽出で、国民総お見合いのテストケースに、来住美咲桜と、児玉愛が選ばれました。
ダミーのでっちあげ計画がスタートしたわけだ。誘拐計画が実行され、マンションに無理やり同居させられたわけである。
おっとりして優しく穏やかな天使だと思っていたアンナは芸能人としての仮面であって、
素顔の美咲桜はめっぽう気が強く、口が悪い、ガラ悪い女の子だった。
2年間抱いていたアンナへの憧れが音を立てて崩れてしまった。膝をつく主人公児玉愛。
主人公は、憧れの芸能人アンナではなく、コウさんの娘である美咲桜として接することにした。
くじけない美咲桜は、理不尽かつ不可解な誘拐に、反骨精神むき出しで徹底抗戦を宣言。「ぜったい逃げ出してやるわ」
何度も何度も何度も脱走にいどみつづける。
美咲桜を監視し、脱走を阻止するのが児玉愛の役割なので
「誘拐犯の共犯者」「脱走阻止の見張り役」として敵意を向けられるのも仕方無かった。
しかもコウさんが母親である事実を、美咲桜には隠しつづける必要があったために、周囲にも「婚約者」という嘘八百を自称しなくてはならなかった。
ついでに怪しんだ高坂輝弥からは質問責めにあって精神的にキツイ。
そして何よりもショックだったのは、
主人公児玉愛の誕生日2月23日に、同居人として美咲桜が祝ってくれたことだった。
芸能人として多忙なはずなのに、自分を誘拐した男のために早めに帰宅して祝ってくれた。
ガラが悪くて口が悪くてすぐ殴る蹴るする乱暴者だが、美咲桜は良い奴なんだ。
さらにその夜、ベランダで一人泣いている美咲桜を見てしまった。
どんなに強がっても、喧嘩腰でも、本当は心細いに決まってる。他人には弱みを見せないようだが、美咲桜は普通の女の子なんだ。
それにせっかく同居しても、このままでは母娘の交流など期待できなかった。
美咲桜はあいかわらずコウさんに対しては、「誘拐の主犯」「何考えてんのかわかんないアホのオスカル」と敵意むき出しだ。
美咲桜の気持ち。コウさんの気持ち。
本当にこれでいいの?
主人公はコウさんに相談。
本当のことを話してはどうか? 自分が母親だといえばきっと分かってくれるはずだ。
このままじゃ美咲桜が可哀相だ。
それにコウさんだって、辛いに決まってる。
だがコウさんは、自分が母親だと名乗ることはできない、という。
美咲桜の出生の秘密を知れば、きっとあの娘は傷つくだろう。それが怖いんだ。
だからこれでいいんだ。母親だと名乗ることが許されなくても、これでいいんだ。
コウさんにとってのファーストプライオリティ(最優先事項)は、美咲桜の気持ちだった。
本当は自分だって母親を名乗りたい。17年もの間、引き離された実の娘をこの手で抱きしめたい。
だが、最優先事項は自分の気持ちではなく、美咲桜の気持ちだ。あの娘のためにも、残酷な真実は知らせないほうがいい。
主人公児玉愛は考える。
それでは自分にとってファーストプライオリティ(最優先事項)は何だろう?
コウさんの考えは分かった。美咲桜を引き取りたいという気持ちは痛いほどわかる。母親だと名乗るつもりはないという覚悟も分かった。最愛の娘から、誘拐犯と罵られ嫌われても構わないのだと。
だけど美咲桜の気持ちはどうなるんだ? 何も説明されないまま突然、誘拐されて。総理大臣までグルになってでっち上げのRTP推進委員会、国民総お見合い制度なんていう明らかに嘘八百な陰謀に巻き込まれて。心細いくせに意地張って強がってやがる。
そしてオレ、児玉愛自身の気持ちは。
コウさんの気持ちを優先するなら、このまま美咲桜に何も知らせず、ニセ婚約者のふりと誘拐犯の一味をつづけることになる。だけどそれだと何も知らない美咲桜が可哀想だ。
美咲桜のためを思うなら、真実を打ち明けるべきだと思う。だけど実娘が傷つかないように、残酷な真実を隠したいというコウさんの覚悟を踏みにじることになる。
完全に板ばさみだ。
そして自分自身に芽生えた気持ち、このまま美咲桜といっしょに暮らしたいという願い。
そんな気持ちも無視できないほど大きくなってきている。
主人公児玉愛は、何をファーストプライオリティ(最優先事項)とすればよいのだろう?
コウさんの気持ちか、美咲桜の気持ちか、自分自身の気持ちか。
主人公児玉愛の、美咲桜に対する印象は4回変化している。
1)最初は、芸能人THSのアンナに対する憧れだった。おっとりして穏やか優しくて「天使のようだ」とばかり思っていた。
2)誘拐してきて、美咲桜の本性が、めっぽう喧嘩早く、気が強くて、わがままで、負けず嫌いで、口が悪くて、ガラが悪いと知ってしまう。
もはや天使のイメージ崩れ去って、ただの「コウさんの娘」だと見なすようになった。
自分がコウさんの息子のようなものだから、コウさんの娘である美咲桜とは、「姉弟のようなもん」かなあと思った。
3)強がって、他人の前では意地はって弱みを見せなくても、やっぱり普通の女の子なんだ。
そう思ったとき、アンナでもコウさんの娘でもなく、「ただの美咲桜として」「友だちになりたい」と考えた。
4)さらに気持ちが深まって、美咲桜がマンションを去ってしまうことが怖くなった。離れたくないと思った。
「ずっといっしょに暮らしたい」「側にいてほしい」「家族になりたい」
児玉愛は、無自覚な恋に落ちたのである。
やがて誘拐計画は破綻する。
片岡和瑞の父親である片岡和樹が、日本に帰国したさい、うっかり口を滑らせてしまったのだ。 美咲桜に気づかれてしまった。
その後、主人公児玉愛は、自分自身の気持ちを正直に伝えた。
「離れたくない」「美咲桜といっしょに暮らしたい」
これがベストアンサーではないのかもしれないが
児玉愛は、自分自身の気持ちをファーストプライオリティ(最優先事項)とした。
この来住美咲桜シナリオでは
コウさんにとってのファーストプライオリティ(最優先事項)
主人公にとってのファーストプライオリティ(最優先事項)
という二種類が出てくるので、もっとも分かりやすい対比となっている。
他の攻略ヒロインシナリオにおいては、
主人公にとってのファーストプライオリティ(最優先事項)を考えることになる。
残酷な真実を知ったうえで、主人公児玉愛は何を為すべきか。
それ考えさせられるシナリオばかりだった。
つくづくこのゲーム作品の脚本家は、凝ったシナリオを練り込んだものだと感心する。
単独シナリオだけでも高品質の出来上がりなのだが、実は単独シナリオだけだと隠された真実が埋め込まれていたりするのだ。
来住美咲桜シナリオでは意図的に隠された真実が、片岡和瑞シナリオで明らかにされたり。
桂樹薫音シナリオでは語られなかった真実が、国立千都瑠シナリオで補完されたり。
すべてのシナリオを完読してはじめて全体像が明らかになる構成なのだ。
ウィキペディアによると言葉遊びが好きな脚本家らしい。言葉遊びが好きな脚本家というものは、こうした伏線隠しが上手なものだ。
誰も気づかない場所にさりげなく重要キーワードを埋め込んだりする。
ゲーム作品タイトルの、副題なんてふつうは誰も気づかないだろう。
たまたまわたしはギャルゲ研究者なので、ゲーム作品の主題なり副題なりが、シナリオの重要キーワードになることを知っていたから分かった。
特に意識せずにゲームしていたなら、ファーストプライオリティなど何の意味か分からなかっただろう。
あとシナリオ途中で、プリメニションという単語が出てきたときも、ああこの脚本家って凄いな、と感心したものだ。
forebording
presentiment
といった類義語ではなくあえて
premonition
という単語にする、言葉の使い方の巧妙さに感心した。
根拠のない予感、女の勘、胸騒ぎ、何かが変わっていく前兆を感じとる
そういった意味が含まれた単語だ。